空気が動かない熱帯夜。
纏わり付いて離れない暑い空気に堪らなくなり、
零は軽い唸り声を上げて身体を捻り 窓に目を向ける。
開け放たれたそこからは風が入る気配もなく、思わずベッドから身体を起こした。
首筋にはじっとりと汗。
『はぁ・・・アツ・・・』
零は大きな溜息を吐いて汗を拭う。
シャツをパタパタ扇ぎながら部屋の時計を確認すると、日付線を軽く越した時間だった。
再度の溜息を零す。
引かれる様に窓際に歩を進めると、そこから覗く異様に輝く月が目に入った。
煌々と照らす月明かり。
霞も掛からず自らを主張して蒼白く光る輪郭に目を細めた。
光りが照らされた地上の先に安らぎの明かりを重ねてしまう。
(あの中は、綺麗 だろうか)
窓の外、
月明かりの仄かな光りの下で。
自分を・・・
消してくれるだろうか。
零は、ぼんやりと月を見上げ、
暫くの間窓際に佇んでいた。
軽く冷水を浴びてリビングに移動すると、窓を開けて外に足を出し縁に腰を下ろした。
空を見上げれば先程と変わりなく輝く月が、惜しみなく光りを降り注いでいた。
風は動かない。
零は月を見上げたまま瞳を閉じる。
身体から熱が取れたせいか、風は吹かずとも心地好い。
カタン--
不意に後ろから聞こえた音にゆっくり目を開けると、音を辿り身体を後ろに向けた。
『零?』
そこにはリビングのドアにへばり付く様にこちらを窺っている優姫が立っていた。
訝しむ様に覗く瞳は、窓際に座っている人物が零だと確信すると
途端に身体の力を解き、顔をへにゃんと緩ませた。
『もーッ!こんな時間にそんな所にいるんだもん!
泥棒かと思っちゃったよー!』
『・・・ぁあ、悪い』
そういえば電気も付けていなかったと。
近寄ってくる優姫に向けて素直に謝罪を入れる。
優姫は安心したのか、にこにこと笑みを浮かべながら零の隣に腰を下ろした。
『暑過ぎて寝れなくて。
零も?』
『ぁあ。水浴びてきた。』
『えー!私も浴びてこようかなー・・・』
優姫が零に顔を向けてそう言うのと、零が手にしていたコーラを口に運ぶのとは ほぼ同時で。
優姫の目の前で、コクン。 と動く喉仏に
何故だか目が奪われる。
じーっと向けられた視線に、零は眉を寄せた。
『飲みたいならまだ冷蔵庫にあったぞ』
『え。』
『コーラ。
飲みたいんじゃないのか?ずっと見てた。』
『ちッ、違うよ!
見てたのはコーラじゃなくて・・・』
言われて自分が見つめていたものが何だったのかを優姫は認識する。
自分には無い、小気味良く動く零の喉仏に、
男の子としての零を感じたのだ。
血流が顔に集中する。
『ぜ、零の髪っ。濡れてるの!
ちゃんと拭かないとダメって言ってるのに!』
ふいっ。と顔を逸らし優姫は零の後ろに回る。
自分の顔を見られない様に、零のタオルを掴み取りワシワシと髪を拭いた。
『・・・良い。そのうち乾く・・』
『だーめ』
有無を言わせない勢いで優姫は零の髪を拭く。
何となく無言になってしまう。
おとなしくされるがままで居る零も無言でそれを受け入れた。
静かに流れる時間は心地好く、
自然と、頭上で柔らかな光りを放つ蒼い月にも意識が飛ぶ。
『月が・・・綺麗だね・・・』
優姫は手を止め、ぽつりと呟いた。
頭に掛かるタオルの隙間から零は再度月を仰ぎ見る。
『ぁあ、憎らしい程に・・綺麗、だな』
部屋から見たその光りを
外で浴びたいと思った。
柔らかな蒼白い光りが清めてくれるような
鎮めてくれるような
そんな気がした。
そんな感傷に浸り、縋ってみたとしても何も変わる事はないけれど。
夜は尖る何かに飲み込まれそうになるから。
静かに月を見上げたまま動かない零に、優姫は堪らなく触れたくなる衝動に駆られた。
二人でいるのに、一人でいる様な
儚げな空気を感じてしまう。
『・・・ねぇ零。
やっぱりコーラ・・・
少し貰っても良い?』
『・・・は?
冷蔵庫から持ってくれば良いだろ・・・』
優姫は零の隣へと身体を移動させた。
目線が交差する。
『ううん、それが良い。
それが飲みたいの。』
『・・・・』
零の瞳に優姫が映り、微かに揺れた。
零の空気に入れた事にほっと安堵する。
(やっぱり視界に入らないなんていやだな。)
後ろにいるのはいや。
隣に・・・
零と同じ方向で一緒に並んでいたい。
優姫はじっと零の瞳を見据えた。
眉を僅かに寄せながら、零は手にしていたコーラを優姫の前に移動させる。
『少ししか・・ないからな』
『うん』
ぶっきらぼうに渡されたコーラを手にして口に運んだ。
若干温くなり甘味の増した味が口に広がる。
優姫は零に笑みを返した。
『えへ。
間接キス。 なんちゃって』
『はぁ?!』
唐突に言われた言葉に零は目を見開き隣を見た。
優姫はペロ。と軽く舌を出してみせる。
そう口に出した優姫の頬が僅かにピンクを帯び、それを目にして零の身体もカッ と熱を灯した。
『お前っ、何言ってんだ!』
『あ、照れた?』
『照れてない!』
ぷいと顔を背けた零を横から覗き見ると。
ほんのり赤く染まる耳に優姫の顔が綻ぶ。
ふと空気が動き二人の間に冷たい風が流れた。
『あ、気持ち良い風。』
『そうだな』
優姫は、ゆっくりと零に頭を傾け寄り掛かった。
寄せられた頭に零の身体がピクリと反応を見せる。
『これなら眠れそう』
『・・・俺を枕にするな』
零は隣に目線を落とし、優姫を見遣る。
優姫は笑みを零しながら気持ち良さそうに瞼を閉じた。
『枕だったら腕枕が良いな』
『あほか』
『えへへ』
夜も更け、心地好い風に身を委ねながら、
身体を寄り添う二人に。
蒼い月の光りは変わらず、揺るやかな煌めきで地上を優しく照らす。
光りを浴びたから、などとは思わないけれど。
こんな穏やかな夜もあるのかと
隣の重みに安らぎを感じながら、熱帯夜の時は過ぎる。
いつの間にか寝息を起てる優姫に軽く笑みを落としながら。
そして。
目覚めた時には窓際で横になり、二人身体を寄せ合ったまま朝を迎えた。
零の左腕には優姫の頭の温もりと、
軽い痺れが残ったのだった。
20100702----》》
なんぞな。
さすが行き当たりばったりのネタだゼ
(ヲイ)
乙梨さん寝ネタが好きなんかな・・・
睡眠はしやわせのバロメータ??
零ってば安らかな眠りに餓えてる様なイメージあるのかもね。
そんな訳で。
一応一万感謝で打ち込み出したお話です。
最初はお題関係なかったんだけど
(熱帯夜と喉仏と間接キスの派生テキストだったんで(笑))
お題シフトしたら中途半端にしっとりめになりました。
蒼月だとホントのイメージは冬
しかも壱縷と零なイメージでした。
まぁ いいぢゃない
正反対な夏の熱帯夜!
そんな事があってもいいぢゃない

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