優姫が学校に行く時間に零が起きてきた事はなく
朝食はいつも灰閻と二人だった。
『昨日ね零くんにありがとうって言われたんだー』
大概前日にあった事を灰閻に話すのはこの朝の時間が多かったが零の話題が出たのは初めてだった。
『汗かいてたから拭いてあげたんだよ。
怖い夢でも見てたのかなー』
優姫は椅子に座り足をバタバタと上下に振って昨日の事を思い浮かべる様に空を見た。
灰閻は焼けたトーストと目玉焼きのプレートを優姫の前に並べると微笑みを浮かべる。
『零くんと仲良くなったのかい?』
優姫はモゴモゴとトーストを頬張りながら首を振る。
『まだ。
でも少しお話出来て嬉しかったよ』
言うと頬を染めてニッコリと笑顔を向ける。
それを見た灰閻は はうッとテーブルに体を突っ伏せた。
『優姫ぃー その微笑みは朝から反則~ッ!!』
『何が?』
『可愛すぎるよ~ッ』
と身体をくねくねさせながら優姫を抱きしめた。
『お父さんジャマー。』
全くもって親バカ全開である。
優姫が支度を済ませ玄関に行こうとすると珍しく起きてきた零が二階から下りてきた所だった。
大きな欠伸をすると下にいる優姫と目があった。
『おはよう・・』
声を掛けると優姫は ぱぁっと顔を明るくさせ
『おはよー零くん!』
と満面の笑みを零に向けた。
何だかまたくすぐったい想いが胸に広がる。
『じゃあ行ってくるね!』
そう言うと零に向かってヒラヒラと手を振ってよこした。
どうやら今までピンと張っていた零への緊張の糸は解けたらしい。
ニコニコと零れる笑顔が零に向けられる。
何だか優姫の笑顔をもっと見ていたいと思った。
思わず背を向けて行ってしまおうとする優姫を呼び止めてしまった。
『優姫』
初めて零から呼ばれた自分の名前に優姫はビクリとし 顔を零に向ける。
階段の手摺りに寄り掛かりこちらを見ている零の顔が微かに笑った。
『今日から勉強教えてやる』
父親に家庭教師の話を聞いた時は正直ウザイと思った。
自分がやる気にならないのであればいつもと変わらない生活のままで良いと言われていた。
だからこの幼い少女にも打ち解けようとせず自分の好きな様に過ごそうと思った。
だけど----
優姫はビックリして目をくりくりとさせた。
勉強は好きではないが
零が一緒にいてくれる事に嬉しくなり笑顔で返事をした。
『じゃあ早く帰ってくるね!!
零くんも遅刻しないようにね!!』
優姫はバタンとドアを閉めるとバタバタと走って学校へ向かう。
走りながら にへ~と顔が緩んだ。
(零くんに”優姫”って呼ばれちゃった!!)
自分の名前なのに零に呼ばれると何だかとても特別なものに感じた。
(不思議)
また顔が綻んだ。
早く早く
と念じる様に学校での時間を過ごした優姫は学校から走って帰ってきていた。
リビングに入る前に息を整え日課のように見ていたリビングのドアから中を覗く。
また零の姿は見えない。
カチャ。
リビングのドアを開けソファの側まで来ると昨日と同じ様に零は横になっていた。
今日は顔の上に本が覆われ隠れている。
そして昨日優姫が持ってきた毛布を身体に掛けていた。
『ぜろくーん』
優姫は内緒話をするように手を当てて耳元でこそっと小声で呼び掛ける。
零はぴくりともしない。
『ぶー
なーんだ。早く帰ってきたのになー』
優姫はペタンと腰を下ろしテーブルの上の本を見た。
とても難しそうな感じだ。
『こんなの読んで楽しいのかなー』
パラリめくってみる。
『優姫には無理だな』
『!!』
後ろを振り返ると顔に覆っていた本をずらし零の目がこちらを覗いていた。
『零くん!』
『早いな。もうそんな時間?』
『うん!走って帰ってきたから!』
『・・・・』
零は身体を起こすと頭をガシガシ掻いた。
『零くん・・
高校生って暇なの?』
優姫は前から不思議に思っていた事を尋ねた。
優姫が学校から帰るといつもいつも既に家にいる零を不思議に思わない筈はないのだ。
制服姿の零を一度も見ていない。
零は優姫の顔を見ると眉を寄せた。
優姫の無垢な瞳が零を見る。
『俺は・・・』
零は視線を外すと身体に掛けていた毛布を優姫の顔にかけた。
何となく見られたくなかった。
『俺は・・サボリ』
優姫は毛布を顔から外し視界を確保する。
零は先程優姫がめくっていた本をパラパラと開いていた。
『もー酷いよー零くん』
『勉強・・するぞ』
『えッ・・』
零は立ち上がると優姫のバックを持ってドアの方に向かった。
(あれ?怒ったのかな・・)
『お前の部屋。
そっちのが良いだろ?』
『・・うん』
優姫はそのまま零の後に着いてリビングを出ると自分の部屋へ向かった。
『ふぁー。
凄いねー零くん!』
優姫は変な声を出して自分の前に広がるドリルを見た。
全くちんぷんかんぷんだった算数の宿題が零に教えて貰ったら面白いように解けてしまったのだ。
『小学生の問題出来なきゃヤバいだろ。
凄くない。普通だ。』
零は優姫の隣で机に頬杖をついて眉を寄せた。
優姫は問題が解けた事に感動して興奮しているのか
頬をピンク色に染めて横の零を見る。
『凄いねー零くん!凄いねー!』
『だから普通・・』
そんな優姫に次の問題を促すと零は背もたれに背中を移し寄り掛かった。
重みにギシリ音を起てる。
『でも 零くん頭良いのになんで学校サボってるの?
優姫だったら自慢しちゃうのになー』
問題を解きながら優姫は零の方を見るとにこり微笑んだ。
『・・・』
零は眉間の皺を濃く刻むと体を背もたれから離し
体を優姫の方に向け再度机に頬杖を着いた。
『優姫は学校楽しいのか?』
『楽しいよ!
お友達もいるしねー。
あと給食もおいしいよ!』
その答えに零は思わず
ふ。と笑みを零した。
何故だか優姫の話は素直に自分の中に浸透してくるようだ。
『高校は給食ないぞ』
『えーッ!そうなの?
あッ だから零くんはサボってるの?』
『そんな訳あるか』
はぁ。と溜息を吐くと
優姫が解いていた問題に指を指す。
『そこ間違ってる』
『えッ!?わぁ!』
零は優姫を再度問題に集中させた。
ぼんやり思考を昔の自分にトリップさせる。
小さい頃から学校を楽しいと思った事はなかった。
友達も作らなかった。
ただひたすらに
”自分一人で楽しんではいけない ”
そんな気がしていた。
それはおそらく それが出来ない病弱な自分の片割れを思っての事だったのかもしれないけれど・・・
(それは酷い言い訳だな)
選んでいたのは自分なのだ。
零には素直な優姫がとても輝いて見えた。
思わず触れてしまいそうになる程に。
『優姫』
呼ぶと優姫はこちらに顔を向けた。
『俺の名前・・「くん」いらない』
『え?』
いきなりの事に優姫は驚いて目をしばたかせた。
首を傾げ少し考える。
『じゃあ・・零 ちゃ ん?』
零は優姫が呼んだ思わぬ呼び方に目を丸くする。
ぞわり と鳥肌が立った。
堪らなくぼりぼりと首を掻く。
『勘弁してくれ・・。
呼び捨てで良い。』
『ぜ・・ろ?』
零はこくり。と頷く。
『ぜろ・・・ぜろ・・・
・・・零。』
優姫は噛み締めるように連呼すると零を見た。
零は優姫の髪をさらりと撫でる。
自分を見る紫の瞳が優しく揺れてくらくらした。
優姫は途端に顔を朱くする。
『あ あのねッ
零くんの目は その・・
反則です・・』
キュッと目をつぶり俯くと瞬間優姫の頭に衝撃が走った。
『いッ・・ったーい!!』
目を開けて何が起きたのか零の方を確認すると頬杖着いて左手を手刀にして構えていた。
『くん呼びペナルティー』
『えーッ!!』
あまりの事に目がチカチカした。
チョップされた所がジンジンする。
『これからも気をつけろ』
先程までの零が纏っていた少し甘い空気が真っさらに無くなってしまった。
『ぅう・・気をつける。』
優姫は痛みが治まる様にひたすら頭を撫で続け
零はそれを見て緩やかに笑みを零す。
窓から洩れる夕日のオレンジが二人を包み込む様に優しく煌めいていた。
20091203
-----------》
とりあえずー
銀とオレンジ終了です
出会って呼び方を通常に戻すまでを目標としてましたので。
この後も零チョップを4~5回は受けたのでわないでしょうか。
しかしこれの優姫は少し幼すぎるかと思うんですが どうですか
幼女ですか
幼女バンザイ(ヲイ)
そして好き勝手な零を作ってしまって申し訳ないです
そうでもしないと話進まん
パラレルだから好き勝手でよし!
とか思ってしまいました
良いよな
創作だしな
(勝手な思い込み)

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