『零くんの側にいるから…』
優姫は何だか淋しくなって零の儚げな銀色の髪に触れた。
ゆっくり撫でると零はピクリとその身体を強張らせる。
『大丈夫。側にいるよ…』
消えてしまいそうな
何処かに居なくなってしまいそうな空気を纏った彼を
大切にしたいと思った。
零は安心したように優姫の手の温もりに身を委ね眠りに落ちる。
私が守ってあげたいと思った-------
『んーッ』
優姫はリビングにある本棚から上の列にある本を取ろうと精一杯背伸びをしてみせた。
リビングの本棚はとても立派で天井にまで届きそうな程の高さだ。
灰閻愛蔵の書籍がビッシリ納まっていた。
その本棚に左手で身体を支え、目当てのものに手を伸ばすが目視からして厳しい程だ。
脚も体重を支える腕もぷるぷると震える。
横の空気がフワリ動いたかと思うと優姫の頭にコツンと何かが当たった。
『ン』
見ると横には零が目当ての本を取り優姫に差し出していた。
『零・・・ありがとう。』
伸び切った自分とは対象的に 零は難無く届いたようで涼しい顔をしている。
背伸びさえもしていない。
優姫は零の顔を見上げる。
いつからだったろう---
『ちょっと無理だったかな。』
優姫はえへへ。と頭に手をやりながら零の手から本を受け取った。
零は はぁ。と溜息を吐く。
『お前背小っこいんだから椅子でも使った方が良いンじゃないのか?』
『なッ!(カチン)』
『変な風に取ってぶちまけるより良いだろ』
零は上の方までビッチリ隙間無く入っている本達を見上げた。
確かに無理矢理取ろうとするとまとめて一緒に落ちてきてしまう程の密着感だ。
『なッ 何よ!
零だって前は私と変わらなかったくせに!』
いつからだったのか・・・
こんなに背の差が出てしまったのは。
前はこんな事なかったのに。
こんな事思わなかったのに。
『俺は成長期』
『私だって成長期だもんッ!!』
『・・・・・・』
零はハタ。と腕を組んで一歩下がった。
目線を優姫に向け上から下へと移動させ
最後に優姫の目を見るとわざとらしく首を傾げた。
『成長期?』
『ムカつくーッ!』
最初は目線が少し上になっただけだった。
いつの間にか 零を見上げないといけなくて。
いつの間にか 変わってしまって。
何でこんなに切なくなるんだろう。
急激に置いていかれてしまう気がした。
『零はズルい』
優姫はふぃと顔を反らす。
そんな優姫を見て零は
イキナリ何を言い出すんだ。
と眉間に皺を寄せる。
『一人だけ勝手に背がにょきにょき伸びちゃってさ』
『は?』
優姫は零の顔を見上げた。
『ズルいって・・・そんなの俺のせいじゃない』
『弟みたいに思ってたのに』
零は露骨にいやな顔をした。
『俺より年下なのにお姉ちゃんか?
優姫・・今日何かおかしい。』
(違う)
『それに 』
零は溜息をつくと優姫の頭にポンと手を乗せた。
『俺は弟なんかじゃない』
そう言うと頭から手が離れた。
零はソファに掛けてあった制服のジャケットを取ると
そのままリビングを出て行ってしまった。
優姫はそのまま動けずにぽつんと立ち尽くす。
(知ってる)
(知ってるよ)
置いて行かれ リビングに一人
それだけで温度が下がったような気がした。
自分の手の中で安心して眠る零は居なくなってしまった---
夜の見回り中に前を行く零を見つけた。
授業中後ろにいる零からの視線はばちばち感じていたけれど、あれから零は何も言ってこなかった。
(呆れられちゃったかな)
どうしようもない感情の渦に飲み込まれてしまって
コントロール出来ない位自分で精一杯になってしまう。
変わりたくない
離れたくないなんて子供みたいに張り合うこの感情の意味が自分でわからない。
ただ前を行く零を見る。
何となく声を掛けるのが躊躇われた。
それでも何となく零の後ろを追う。
制服を風にバタバタとなびかせて颯爽と歩く零との差は
普通に歩いているのにどんどん離れていく。
リーチが違うのだ。
歩幅も格段に違う。
優姫は少し歩を早める。
理事長に頼まれて買い物に行く時 横にはいつも零が並んでいて
零が自分に合わせて歩いてくれていたんだなと改めて感じる。
それはつまり零が自分を気に留めていなければ置いていかれてしまうと言う事。
今の様に・・・
優姫はスカートをキュッと握る。
また零が遠くなった気がした。
(そんなのイヤだ)
優姫は堪らなくなって零の後を追い掛けようと走り出したが
暗いせいか足元の木の幹に気付かず足を取られてしまった。
『キャッ!』
優姫はそのまま転び、地面に手を付き体を支える事になった。
いつもならこれくらい身をかわす事など可能であった筈だけれど。
優姫は追おうとした前方の零を見る。
もう姿は見えなかった。
(何だか・・)
優姫は擦りむいた膝と手の平を見る。
血が滲む。
『痛い・・・』
苦笑いが零れる。
視界がゆらりと滲んだ。
スカートにポタリ。透明なシミを作る。
(心が痛い)
差は縮まらない---
零はその日の見回り後
いつもの様に理事長の居住区にあるバスルームを借りていた。
寮へ戻ろうと廊下を歩いているとリビングから微かに漏れる血の香が鼻孔を掠める。
(優姫?)
リビングのドアは微かに開いている。
ゆっくりと開けると中からテレビの小さな明かりが洩れてきた。
香りのする方へ零は歩を進める。
ソファの上には優姫が眠っていた。
零は溜息をつく。
『こんなとこで・・』
ふと目をやるとテーブルの上には消毒液と血のついたティッシュが置いてあった。
再度優姫を見遣ると膝と手にバンドエイドが貼られていた。
(怪我?)
零は眉間に皺を寄せる。
最近優姫の様子がおかしいのはわかっていたが何となく声をかけられなかった。
思いを言葉にするのが苦手だからだ。
でも。
『優姫』
優姫の肩を軽く揺すり起きる様に促す。
『優姫。起きろ』
『ん・・』
優姫は軽く目を開け顔を上げると 目の前に揺らめく零の顔を見た。
久しぶりに零が自分と同じ目線にいるのが堪らなく安心した。
『お前風邪引く・・・』
優姫は思わず零に抱き着いた。
『!』
いきなり抱きつかれた零は驚いて言葉を無くした。
勢いよく優姫の体重が乗ってきたせいか後ろに少しよろめきながら優姫を支える。
『おッ前・・寝ぼけてんのか!』
ぎゅうぅう。と優姫は力いっぱい零を抱きしめる。
零はそんな優姫に はぁ。と溜息を吐いた。
『怖い夢でも見たのか?』
零は優姫の頭を優しく撫でる。
(怖い・・)
怖い--夢みたいな現実にうなされる・・・
零が居なくなってしまう現実・・・
優姫は零の服をギュッと掴んだ。
(ずっと隣にいたいよ)
零から香るせっけんの香に涙が出そうになる。
零は優姫を優しく撫で続けた。
『零・・』
『ん?』
『置いて いかないで。
離れていかないで・・・』
『・・・・・』
優姫は更に零を離すまいと強く強く抱きしめた。
零は優姫を支え切れずに床に腰を落とす。
『・・大丈夫』
優しく背を撫でる。
優姫が安心するように--
『優姫』
優しく名を呼ぶ。
優姫を愛おしむように--
『優姫 大丈夫だから』
零はふと昔を思い出した。
眠れない自分の側で柔らかく微笑み優しく撫で続けてくれた小さな手を。
優姫から与えられた温もりと安らぎと---
『俺はここにいるから』
『・・ぅん』
今度は俺が守るから。
優姫は安心したように零の腕の中で寝息を立てた。
零はそのまま優姫の背を撫で続ける。
優姫の安らかに揺れる心音が心地良い。
許されるならずっとこのまま優姫の側で--
(例え存在が無くなったとしても・・)
--心は優姫の側にある--
想いを心音に乗せて注ぐ様に零は優姫を優しく抱きしめた。
20091208
---》》》
うわー
すんません
(・ω・`;)
こんな出来ですんません・・
優姫→零風味が大好きなのです
甘くなりませんね・・
すんません
いや なんかあまり進み過ぎるのも違うような気がして手が出せません
片恋ちっくが大好きです
二人で片恋
つまり両思い的な?

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