零が黒主家に来てから暫く経った。
暑い夏も過ぎ木々も艶やかに色付き始める季節に入った。
相変わらず零は学校に通う気配もなく
優姫の家庭教師だけは続けているものの 他の時間は自分の勉強にあてていた。
『ねぇお父さん。
零ってばなんで学校行かないのかなー』
以前にも零に尋ねた事があったが結局何故かは教えて貰えなかった。
『やっぱり給食がないからサボってるのかなぁ』
それを聞いた灰閻は思わずぷくっ。と笑ってしまった。
『ンー 給食は関係ないだろうけどねー。
零くんはね高校で勉強する事を全部終えてしまったんだよ。』
『ふぅん』
優姫は灰閻の話を聞いてもよくわからなかったが
勉強が終わっていると言う事はする事がないと言う事だろうか。
『でも 零くんも学校に行ってお友達を作った方が良いのにね』
灰閻の言葉に優姫はパッと顔を明るくした。
『うん そうだよね!
楽しいもんね!』
『学校が楽しいと思って貰えると良いんだけどねぇ。』
『うーん』
『何か良いきっかけが出来ないかねぇ・・』
灰閻は顎に拳を当てて考える仕種をする。
優姫も 眉間に皺を寄せて考える。
残念な事に優姫には零が楽しいと思って貰える事が全く思い浮かばなかった。
『あ。あれ中等部の人だね 優姫ちゃん』
友達の詩織ちゃんと帰り道を歩いていると隣からポソリと囁かれた。
優姫は詩織の視線の先へと目を配る。
優姫達が通う事になるであろう中等部の生徒が3人、反対の道を歩いていた。
『可愛いねー』
詩織は瞳をキラキラさせて中等生を見る。優姫も振り返りながら3人を見遣った。
『私たちもあの制服着るんだよね』
『うん』
『今度制服の合わせがあるんだって!楽しみだねー』
詩織に言われ、そういえば制服合わせがあるんだったと思い出した。
ぼんやり自分があの制服に包まれている所を想像する。
『あッ!あれは高等部だね』
詩織は優姫の袖をくいくい。と引っ張った。
今度は前方から歩いてくる二人。
手を繋いだお兄さんとお姉さん。
『あの二人付き合ってるのかなー。
素敵ねー』
詩織はうっとりと二人を見つめた。
『カッコイイねー。可愛いねー。』
『・・・うん』
『まだ先だけど高等部の制服も早く着たいねー』
詩織は頬を紅潮させて道を行く高校生を見つめた。
黒主学園の制服はデザインが良くとても人気が高い。
優姫と詩織の横を黒い制服に包まれた二人は仲良さそうに通り過ぎて行く。
繋がれた手が眩しかった。
(・・零も似合うだろうな)
優姫は通り過ぎた二人を見つめ制服を着た零を思い浮かべた。
手を繋いだ姿に目が奪われる。
そして帰り道、零の横に並ぶ中等部の制服を着た自分の姿。
『良いなー』
ぽそり言葉がついてでた。
優姫はいつまでもその姿を目で追い続けていた。
『あのね。今度制服の合わせがあるんだって。』
夕飯時。
優姫は暫くおとなしく箸を進めていたが零が食べ終わったのと同じ位に話を切り出した。
『あー。そういえばそんなお知らせが来ていたねぇ。』
灰閻はのんびりした声を発した。
『優姫の制服姿・・すっごい可愛いんだろうねぇー。うふふ』
想像を膨らませた灰閻は でれーと表情を緩ませた。
それを零は横目で見遣り、犯罪者一歩手前な灰閻の様子に呆れ顔を向ける。
『それでね、今日高等部の人達とすれ違ったんだけど
高等部の制服ってね凄くカッコイイんだよ!』
零は頬杖をつきながら優姫の方へ顔を向けた。
優姫のキラキラした瞳と目が合う。
『それでね!零も学校一緒に行こうよ!』
『はぁああ?!!』
零は思ってもいなかった言葉に目を丸くする。
思わず頬についていた手から顔が跳ね上がる程だった。
どこをどうしたら自分の通学の話になるのかさっぱり理解出来なかった。
『何でそんな話になるんだ・・』
零がはぁ。と溜息を零しながら言うと
後ろから声が掛かる。
『それは良いね!』
いつの間に席を外していたのか灰閻がビニールに入った洋服を持ってリビングに入って来た。
ガサガサとビニールを外すと出て来たのは男子用の制服らしかった。
零はその制服を見て絶句する。
『そう これ!
すっごくカッコイイの!』
『零くんの制服はね!
お父さんは既に用意済みだよ☆』
『わぁ!お父さん流石!』
目の前でやいのやいの騒いでいる二人を前に零は盛大な溜息を吐いた。
『まさかこれを俺に着ろって言うのか?』
『うん!』
『こんなアホみたいにボタンが多いのを?』
『そう!』
『アホみたいにって・・
ヒドイよぉ零くぅん・・』
灰閻はシュンとうなだれる。
零は腕を組んで顔をぷい。と反らした。
『こんな面倒臭い制服 絶対イヤだ!』
『えーッ!!』
優姫は大声を発し、テーブルから身を乗り出した。
『じゃ じゃあ写真撮るだけでもどうだい?
優姫と一緒に記念に撮ろうよ』
ついでに持って来たのか灰閻はすかさずデジカメを取り出して零に懇願する。
零は無言で拒絶を返した。
暫く俯いていた優姫がぼそりと口を開く。
『じゃあ 今度のテストで優姫が60点以上取ったらお願い聞いてくれるって言うのは?』
『は?』
零は思わず声を出した。
自分では考えが及ばない事を提示してくる優姫には毎回驚かされる。
『60点以上取ったら零も高校行ってくれるって約束してくれる?』
『・・・・』
優姫は真っすぐな瞳で零を捕らえる。
凜とした意思を持つ瞳に零は目が反らせなくなった。
『良いね!良いねそれ!』
灰閻は手を叩きながら二人を見た。
何も発しない零に顔を向けると指をパチリ。と鳴らし
『決まり☆』
とウィンクしてみせる。
零はその一言にハッと我に返った。
『何勝手に決めてんだ!』
『何で何で?絶対楽しいよ!?』
優姫は益々身体を乗り出して必死に訴える。
零は腕を組み 背もたれにどっかり寄り掛かった。
顔は優姫を避ける様に背け、目を閉じた。
『零ってば背が高いし、スラっとしてるから制服も絶対似合うよ!?』
『似合うとかの問題か』
零は眉間に皺を寄せ はぁ。と溜息を吐く。
『でもでも優姫だって来年は中等部だし制服着るんだよ?』
『は?意味わかんないだろ』
零は背けていた顔を思わず優姫に向けた。
その瞳はとても必死だ。
何故そんなにこだわるのかわからない。
零は一層眉を歪めた。
『だって中等部隣だもん。
零の制服姿見たいもん。
零と・・一緒に通いたいんだもんッ。』
『・・・・・・・』
『・・・・・・・』
零は言葉を紡げずに声を飲み
灰閻は優姫の思いに目を丸くした。
零が学校に通うきっかけを考えてはいた。
学校が楽しいと思わせる何かを考えていたハズだった。
思い浮かばなかったけれど。
優姫はどうやらそんな事よりも
ただひたすらに
「零と一緒に通いたい」
その想いしか頭にはないようだ。
零の為。と言う理由ではないけれど
まっすぐで実にシンプルな欲求。
灰閻は思わず顔を緩めた。
『絶対似合うよ!カッコイイよ!』
『・・・・』
零は暫く言葉が出なかったが
盛大に大きな溜息を零し優姫の顔を見つめた。
『60じゃ低すぎじゃないのか』
『えっ』
『俺に願いを聞いて欲しいんだろ?』
零は微かに口角を上げる。
優姫は慌てた様に手をパタパタと動かした。
『じゃ じゃあ65点!』
零は じとー。と目線を細めた。
『65?・・本気を見せろ。』
零の厳しい視線に優姫は眉間に皺を寄せ、その場所に指を当てて唸りを上げる。
『んんんーッ・・・
じゃあ・・68点!!
これでお願いしますぅ!!!』
優姫は泣きそうになりながらパン。と両手を合わせて零に頼み入れた。
これ以上はどうやら無理らしい。
『はぁ。』
零はわざとらしく大きな溜息を零すとテーブルに頬杖をついた。
『わかった。
じゃあ68な・・・』
優姫はそれを聞くとぱぁあ。と顔を輝かせた。
思わず両手を挙げて万歳をする。
『うそ!やったー!!』
『えッ!零くんマジぃ?!!』
優姫と灰閻は両手を取って
ヤッターヤッターとはしゃぎまわった。
零はその二人の姿を遠目で見遣る。
今でもあの制服を着る事に対する抵抗感は拭えないが
何故だか。
優姫が望むのであれば 興味の湧かない事ではあるが
学校に通っても良いかもな
とぼんやり思ってしまった。
零は頬杖をついている手で口元を隠す。
(全くどうしたもんだろうな)
零は隠した手の中で ふ。と小さな笑みを零した。
優姫は一通り灰閻と喜びを発散すると零の側に寄り横から勢いよく抱き着いた。
『ありがとう零!
一緒に学校行こうね!!』
『・・・・』
優姫は華やぐ笑顔を零に向けて咲かせる。
それに対し零は意地悪そうな瞳を優姫に投げた。
『言っとくがまだ決まった訳じゃない。』
『うッ?』
その一言に優姫は身体を強張らせた。
すっかり抜けていたがテストで68点以上取って始めて一緒に通えるのだ。
優姫は固まって零から身体を離す。
『まぁ優姫の本気は68点程度だからな。
取れないなんて事は有り得ないだろうけどな』
『ひょー!』
零の意地悪な笑みを見て優姫は変な声を出して凍りついた。
それでも優姫にとって68点は夢の様な数字ではあるのだ。
途端に顔を青くさせる。
『精々がんばれ。』
『ぜぜぜぜ 零ぉ
勉強教えてよぉ~』
優姫は若干目を潤ませて零に助けを求める。
零はそんな優姫を見ながら ははッと笑いを零した。
優姫を前にすると零の表情も若干豊かになるようだ。
(零くんも優姫には大概弱いね)
灰閻はそんな二人をにんまりとしながら遠くから眺めた。
しかし、優姫はこの何日か後にあったテストで68点以上の結果を出す事は出来ず
優姫は涙目で零に懇願する事になり、それが何回か繰り返された。
その度に零は優姫の頼みを受け入れる事になる。
『お前の本気は薄っぺらいな・・』
『今度こそ取りますからぁ~ッ』
そして---
桜舞うピンク色の季節。
優姫の隣には一緒に高校へ通う零の姿が並び
念願叶った優姫の顔には満面の笑みが絶える事なく華やいで咲き乱れていた。
20100126--->>
長引いてしまいました・・・
(´ω`)
えーと。ニキにも書いてた
『一緒に学校に行こう!!』
が今回のテーマです(笑)
だって零の制服姿 カッコイイんだもーん!!
と言う乙梨の全身全霊の想いでございます(笑)
簡単な理由で零は学校に行くはめになるのです
がんばれ。

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