補習のお知らせが
ありました・・・『で?』
テーブルの上の紙を見せられた零はぴくりとも表情を変えず、頬杖をついた体勢で優姫の顔を見る。
夕飯後、後片付けを終えた所を手招きされて呼ばれてみれば、残念な匂いのする優姫の答案用紙が広げられていたのだ。
『あのね。この前やった抜き打ちの数学のテストあったでしょ?』
『ぁあ。あったな、そんなの。』
『それで・・あの・・補習を言い渡されたんですけどね』
優姫は申し訳なさそうにチロリ。上目遣いで零の表情を見る。
答案用紙の名前横にすまなそうに書かれている数字に目線を落としている零は
頬杖を解くと椅子の背もたれに寄り掛かりどっかり優姫に視線を合わせた。
『へぇ・・
ところでこれ、10点満点だったっけ?』
優姫は右上に書かれた一桁の数字を見て
はぁーッ。と大きな息を吐く。
『い、意地悪な事言わないでよー!
零だって受けたでしょー?!』
『ぁあ、だから優姫だけ違う問題受けたのかと思っ』
『一緒~ッ!100点満点問題でした!』
優姫は思わず大きな声で零の声に被せて乗せる。
零は盛大に溜息をついて腕を組んだ。
『ホントに・・教え甲斐がないよな、お前・・・』
『えーっと・・・おっしゃる通りであります・・・』
優姫はシュン。と頭を垂れる。
抜き打ちではあったが、以前優姫に泣き付かれて教えた事がある内容が幾つか含まれていた筈だ。
ただ優姫は右から左へと何でもかんでも筒抜けさせる事においては天才の様だから、恐らくそんな事は気付いていないだろう。
零は優姫の答案の横に並べて置いてある未回答の用紙に目線を移動させた。
『ところで、何で同じテスト用紙がここにあるんだ?』
『えっとー、教科書でも何でも見て良いからとにかく埋めてみろって・・・
公認カンニング?みたいな??・・えへ。』
『はぁ?!』
優姫は渇いた笑みを張り付かせて零へと首を傾げて見せた。
落ちる所まで落ちたと言う事か。
零は呆れを含む声を出した。
『公認・・ねぇ』
『だからね、零に教えて欲しいなぁ~って。お願い!』
顔の前に両手を合わせ、上目遣いでこちらを覗いて見せる優姫を横目に零は溜息をついた。
(またか・・・)
この”おねだり”に弱いのは何故なのか。
優姫のお願い攻撃はいつもいつも零を従わせる何かがあるような気がする。
未だに窺う様に見つめる優姫の視線を
目を伏せて遮断し、零はガタリ。と腰を上げる。
『たまには自分一人の力でやってみろよ。
じゃないといつまで経っても
”ぶあ・・・・・・』
『”ぶぁ?”』
『・・・・・か” なままだぞ。』
『何そのタメ・・・
ぶぁかって濁しても可愛くないし。
ひ、酷過ぎる・・』
優姫は目元を拭う仕種をしてみせる。
零は眉間のシワを色濃く刻み優姫の顔を避ける様に顔を逸らした。
『じゃあ・・俺は寝る。』
『えぇーッ!!嘘!
零ぉ カムバーーック!!!』
優姫が伸ばした手は空を切り、カチャリ。ドアが閉まる音を残して零はリビングを後にした。
優姫は一人リビングに留まりテスト用紙と格闘することとなった。
リビングのドアが開いたのはそれから何時間か経った後。
優姫を突き放した筈の零の姿がドアから現れる。
零を迎え入れたのは静寂な空気だった。
リビングのテーブルに目を遣ると答案用紙と積まれた参考書。
そして、おとなしくなった優姫の姿。
『・・・・・・・・・』
部屋に戻り寝ようと思ったが何となく眠りに落ちる事が出来ず、様子を見に来てみれば元凶は既に夢の中。
零はひとつ溜息を落とした。
(懲りないな。俺も。)
寝ている優姫の腕の下に隠れているテスト用紙を見てみれば、あれだけの時間を要しても半分も到達していない。
『マジか!』
零は思わず声に出してしまった。
その声に優姫は「もー食べれにゃむにゃ」と
にこやかに返事をする。
零の眉間に怒気を含むシワが生まれた。
『おい!優姫!起きろ!』
少し強めに体を揺さ振ってみれば優姫の覚醒を急速に早め、その意識が戻ってくる。
『・・んんー。・・ハッ?
しまったー!! あ、 あれ?
零?・・・ あッ、 朝?!』
優姫が目覚め、慌てて確認した時計の
針が示す数字の位置は「2」----
思わず安堵の息を漏らす。
今の状況を整理しようとここにいる筈のない零の顔を改めて覗いた。
その顔は不機嫌そうに眉を歪めこちらを見ている。
呆れているのだろうか。
『お、起こしてくれてありがとね零。
どうしたの?
お腹でもすいちゃった?』
『お前と一緒にするな。
俺は・・・・・その、喉が渇いたんだ。』
一呼吸置いてそう話す零に対して優姫は
「そっか」
とテスト用紙を隠す様に自分の元に手繰り寄せ、えへへと笑ってみせる。
『はぁ』
零は溜息をひとつ零すと椅子を引いて優姫の前に腰を下ろす。
『何処がわからないんだよ』
『え。 教えてくれるの?』
『公認カンニングなんだろ?』
ぶすっと横を向いて話す零に優姫は華やかな笑顔で返す。
『うん! いつもありがとうね、零!』
『・・お前の脳みそだけじゃ朝までに終わりそうもないからな・・
明日の見回りへの皺寄せも俺に関わってくるし。』
優姫から向けられた笑顔に零は居心地悪そうに眉を潜め、その口からは可愛くない言葉が発っせられた。
視線の在り処を左、右へと移動させる。
優姫はそんな零の瞳を真っ直ぐに見つめ、その視線を自分に絡め取ると
更にえへへ。と微笑んだ。
『何だよ・・・気味悪いな。
言っとくけど、これの代償は高くつくぞ。
夜間割増だからな。』
不機嫌を表すかの様に眉間に寄せられる影は深く。
微かに揺れる瞳を伏せた零は更に憎まれ口を叩いた。
優姫はそんな零を見ながら
僅かに上がる口角を手で隠した。
何故ならこう言う時の零は照れを隠しているだけなのを知っているから。
お願いを受け入れてくれる時に見せてくれる表情。
そして、零は大抵最後には自分の我が儘を聞いてくれる事も。
実はわかっているのだ。
だから、リビングで待っていたのだ。
(寝てしまったけれど)
ねぇ。
憎まれ口を叩く時、微かに笑うの。
気付いてる?
優姫は零に勉強を教わりながら
ちろり。視線を目の前の零に向ける。
照れた時の零が私はとても好きだよ。
揺れ動く綺麗な瞳はいつも色が変わる様で。
目にする度に胸が跳ね上がる。
だから・・
零にはいつも我が儘言っちゃうの。
って言ったら怒るかな。
優姫は心でぺろり。舌を出す。
(そんな零を私だけ・・)
優姫は零を真っ直ぐに見据えた。
解き方を享受している零の顔はテスト用紙に向けられている。
『私だけに見せてね?』
『・・は?』
目を丸くする零に優姫は柔らかな笑顔で返した。
零は呆れた様に目を細め優姫を見遣る。
『公認カンニングが許されたのはお前だけだ。
良いから早くやれ。』
零は優姫の頭をわしり。掴むと小さく小突いてみせた。
優姫は目をぱちくりさせて乱された髪に手をやる。
思わず笑みが零れ優姫は胸に手を当てた。
『割増で零の仰せのままに!』
『・・何だそれ。』
盛大なため息と共に零は呆れ顔を。
優姫は満面の笑顔を。
(私だけに見せてね?)
(私だけの我が儘聞いてね?)
心の中で唱える様に零に向ける。
それはとても小さく輝くミリオンスターの滴の様に。
お願いよ?
おねだりはにぃ。それはただひとり限定の我が儘効果。
20100316----》》
中途半端になってもた・・
すんません
何も言うまい

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